琥珀色の誘惑 ―王国編―
――お帰りなさい! プリンセス・アーイシャ様――


まず、成田空港で真っ先に目に付いたのが、そう書かれた横断幕だ。

もの凄い数の人々がロープの向こうに見える。それぞれがクアルンと日本の国旗を手に持ち、懸命に振っていた。


四月にミシュアル王子が来日した時は非公式、いわゆる“お忍び”だった。滞在中にバレて、帰国時は騒ぎになったが、それと比べても今回は桁外れの大騒ぎだという。

インターネットでは舞の顔写真も出回っていた。

だが、さすがにどんな三流週刊誌でも、クアルン王妃の写真はアバヤを着てヒジャブでしっかり顔を隠した全身黒ずくめの姿しか掲載されない。ミシュアル王子がもの凄く睨みを利かせているらしい。

そのせいか、人がどれだけ集まっていても、決して舞の行く手を阻むような事態にはならなかった。


基本的に、舞はミシュアル王子の二歩ほど後方を歩くのが慣例だ。

特に影を踏んでも文句は言われないが、隣に立つことは公式では認められていない。国王の席がある場合、ミシュアル王子は中央に、舞は同じ段の彼より後ろに席を設けられる。

これが第二夫人以下となると、一段下になるのだから……さぞや切ない思いをしたことだろう。


だが非公式、或いは非公開の場になると少し変わる。

舞はミシュアル王子の隣に立ち、イスラム以外の国なら彼の許しを得て男性との会話も可能だった。

非公開だとヒジャブを外すことも出来る。これが適用されて、舞は日本での結婚式と披露宴を認めて貰えたのだった。


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