琥珀色の誘惑 ―王国編―
舞が驚いたのが、非公式の席で政府の代表に言われた言葉だ。


「ご結婚おめでとうございます。妃殿下のお里帰りを国民は心待ちにしておりました。日本には二週間ご滞在と聞いております。どうぞ、ごゆるりとお過ごし下さい」


(ひ、ひでんか? わたしが妃殿下? ど、どうしよう……何か答えなきゃ)


頭で判っているのと、目の前に突きつけられるのは雲泥の差だ。

そんな舞の耳元にミシュアル王子が唇を寄せ、『どうもありがとう――それだけで良い』アラビア語で教えてくれた。

その瞬間、非公式でも人前で答えるのはアラビア語、と言われたことを思い出す。


『シュクラン ジャズィーラン(どうもありがとうございます)』


見えてるのは目だけ、とはいえ、舞はニッコリ笑って答えた。

すると、今回通訳として来てくれている外務省の女性が「心より感謝致します」と訳してくれたのだ。

そのことに、舞は深い感慨を覚える。


(わたしって、本当に外国人になったんだ……)


そこから続く一週間の公式行事は、舞の人生における劇的な変化をイヤと言うほど教えてくれ――。

ようやく解放された時、舞は楽しみにしていたウエディングドレスに、やっと袖を通すことが出来たのだった。


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