琥珀色の誘惑 ―王国編―
「舞! 怪我はないかっ!?」
 

舞が宮殿に戻ってわずか十分――。

大きな音と共に扉が開いた。ミシュアル王子は知らせを聞き、王宮から駆け戻ったという。

彼は飛ぶように大股で部屋を横切り、青褪める舞の頬に手を添えると顔を覗き込む。


「ア、アル……わたし」

「ああ、もう心配は要らぬ。二度とこのようなことはない。結婚前であることに油断していた。これよりは王妃同様の警備を」

「わたしは大丈夫よ。ヤイーシュが守ってくれたから……ヤイーシュは? 彼は無事なの? わたしの代わりに何か液体を掛けられたはずよ。もし、硫酸とかだったら……ねえ、アル、ヤイーシュは無事?」


舞は心配のあまり、ヤイーシュの名前を連呼した。その途端、ミシュアル王子の顔は目に見えて不機嫌になる。

そう言えば、王子は舞を守ることを“権利”だと口にしたことがあった。“義務”というならわかるが……。


「ヤイーシュがお前を守るのは当然のことだ。もし、液体がお前に掛かり、ヤイーシュらが無傷であったなら……ターヒル共々免職になっていただろう。お前の体に傷が付けば、護衛の者はよくて鞭打ち、最悪の場合は全員死刑だ」


それは大袈裟なことではなく、この国の法律だった。


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