琥珀色の誘惑 ―王国編―
「ちょっと待って下さい。――すみません、ハ、ハディージャ様の言葉がよくわかりませんでした。もう一度、訳していただけたら……」


このまま不用意に『ナアム(ハイ)』と言い切ってしまうのはヤバイ気がする。

するとライラは、


「あなたは我が国の花嫁になる資格はない、との仰せです。あなたが既に、王太子殿下をベッドに引き込んでいることは、そこにいる女官シャムスが証人です。あなたはご自分が王太子殿下を堕落させたことを、わかっておられるのか? とお訊ねですのよ」


あの件が今、この場で持ち出されるとは思ってもみなかった。

シャムスはあの朝、悲鳴を上げてライラを呼び寄せてしまったことを後悔している。責任を感じて、今にも泣き出しそうだ。

一方、ヌール妃の感情はよくわからない。

無表情でジッと舞を見つめていた。
  

「アル……いえ、王太子殿下は、堕落なんてされてません」


震える声で舞は答える。

ミシュアル王子が好きでここまでやって来た。

親の決めた婚約なんて「冗談じゃない」という日本に比べ、クアルンでは「当然のこと」。

二十歳でバージンなんて「恥ずかしい」が、ここでは婚前交渉のほうが「恥ずかしい」と聞かされた。

黙っていたら舞だけじゃなく、ミシュアル王子の名誉も傷つくのである。


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