吐息が愛を教えてくれました


その声に反応した私は、隣にいた千早を庇うように突き飛ばし、落下してきた看板の下敷きになってしまった。

そして、大けがを負った。

両足を骨折し、頭を強く打ったけれど、幸い命は取り留めた。

ピアニストを目指していたせいで無意識にかばったのか、両手だけは無事だった。

私以外のクラスメイトは皆、無傷で、私が突き飛ばした千早は軽い打撲。

未だに私の額にはその時に負った傷痕が白くなって残っている。

両足も、優秀なお医者様のおかげで回復し、引きずることもなく、以前となんら変わることなく歩き、走っている。

リハビリを終え、全てが元に戻ったかのように、見えるけれど。

それは、見た目だけの話で、私が事故によって受けた一番大きなダメージは、別にある。

強く頭を打ち付けたせいかどうかは、今もわからないままだけれど、その日を境に私の左耳は聴力を失った。

何人ものお医者様に診てもらっても、聴力検査の波形が山を描くことはなかった。

そして、私が感じる音は全て、右耳からのものとなり、ピアニストとなる夢を諦めた。

右耳が聞こえるんだから、諦める必要はなかったのかもしれないけれど、ただでさえピアニストへの道は険しい。

その険しい道を、突き進む気力が、私にはなかった。

結局は私が弱かったんだ……。




< 14 / 40 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop