アイドルな王子様
 7月の陽射しは、遮光カーテン越しの居間にでさえむっとする熱気を送り込んでいる。


 一日中冷房のガンガン効いたデパートで働かねばらならない身としては、自宅に居る僅かな間くらい自然な空気に触れていたい。


 ってな訳で。エアコンは開店休業状態で暇を持て余し、我が家では網戸と扇子が大活躍している。


 私はタオルを身体に巻きつつ、窓辺に寄ってカーテンとガラス窓を開け放つ。

 ドレッサーに向かいがてらにテレビをつけて、鏡の前に腰を下ろした。


 間もなく映し出されたワイドショーに鏡越しに目をやりながら、化粧水の蓋を捻る、手が、凍り付いた。

 ばっと勢いよく振り返り、テレビ画面を凝視する。

 テロップを、何度も読み返した。


 瞬きを素早く繰り返してみた。


 漫画のように目を擦ってみたりもした。


 そんなことをしても、当然ながら画面の文字は変わらない。



『人気アーティスト・ショウ 突然の結婚宣言!!』



 しっかり、はっきり、きっかりと、ぶっとく書かれた憎たらしい文字を、私は茫然として眺め続けた。



 そんな嘘クサイ、ベタな見出しでも私にとっては充分に殺傷能力があったのだった。





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