花咲く原石
リトの声に小さく首を横に振り、彼を見上げたまま苦笑いをしてみせる。

「否、矢に何か塗りこんであったらしい。」

力なく投げ出されたオーハルの手足は軽く震えていた。

さっきまでは気力だけで立っていたが、力が抜けた今は何もする事が出来ない。

捕虜を捕らえに来たが、シイラの脱走を手伝うオーハルはもう組織としては用済みな人間だ。

伯爵は生死を問わず、いや、その場で始末しろとでも命じているに違いない。

矢の先には毒が仕込まれていた筈だ、オーハル本人はきっとそう考えているのだろう。

塞ぎこみつつあるオーハルの暗い顔を見つめ、リトは静かにその場に屈んだ。

すぐ傍にリトの気配を感じるが、オーハルは何も反応を示さなかった。

「そこまで話せるんだ、毒ではないですね。」

さらりと、口には出さないオーハルの考えをきっぱりと否定してリトは笑った。

下を向いたままの状態でオーハルの目は大きく開く。

「痺れ薬か…麻酔薬ですかね?」

そう言われてみれば確かに毒薬のわりには症状が軽かった。



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