片思い経由、恋愛行き


車内は無言。



窓の外をじっと見つめたまま、あれから何も言わない成海さん。



達也がいつも見ている景色を、自分の目にも焼き付けようとでもしているのだろうか。





……何で気付いてしまったんだろう…



何で、見ないふりができなかったんだろう…



キミは今、何を思っている…?




さっきからずっと無表情の彼女の姿に、俺の心がズキズキと痛む。



すぐ近くにいるはずなのに、ものすごく遠い心の距離。



…まるで、まだ知り合っていなかった数日前のよう。





…こんなことになるんだったら、あの店に連れて行くんじゃなかった。



郁也のことといい、達也のことといい、行ってよかったことなんて何1つない。



成海さんを傷つけて動揺させただけだ。



……つらいな…






…そんな息苦しいバスも、我に返った頃にはもう終盤。



あっという間に坂下停留所に着いてしまっていた。
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