桜雪
ある春の日
「お隣り、よろしいですか?」
 
そんな声にはっとして、私は声の主の方へ目をやった。
いつの間にか私が座っているベンチの側に、初老の婦人が立っていた。
 
ここは、桜が幾本も立ち並ぶ並木道で、春になると私はよく散歩に出掛けるのだ。
冬にも、たまに散歩をしに来ることもあるけれど、冬の物悲しさとはまた違った雰囲気があって、ベンチに座りながら桜の花びらが舞い落ちる様を眺めるのが好きだった。
 
時々老人のカップルなどの姿も見掛けたりする。
この婦人も散歩の途中なのだろう。
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