ふたり。-Triangle Love の果てに
その日は閉店の午前3時よりもだいぶん早い1時に閉店せざるを得なくなった。
呆然と座る私の前に、マスターが氷水の入ったタンブラーを差し出した。
「ごめん、真琴ちゃん。隠すつもりはなかったんだ」
「どうして…」
「真琴ちゃん」
「どうしてあんなやつらを!警察でもちゃんと対応してくれるじゃありませんか!私の両親があいつらのせいでどうなったか、マスターだってご存じのはずです!」
知ってるよ、よぉく知ってるよ、とマスターはそう言ってうつむいた。
そんな彼の代わりに恵美さんが口を開く。
「この街で商売をしていくにはもめ事はつきものなのよ。警察じゃ解決してくれないことでも、あの人たちなら最後の最後まで責任を持って請け負ってくれる」
「皮肉だけど、警察よりもアテになることもあるんだ」
「彼らにお金を払ってるんですか。みかじめ料って言うんですよね、そういうの」
軽蔑を込めて私は言った。
「真琴ちゃん…」
マスターは悲しげな顔をしていたけれど、それとは正反対に恵美さんは厳しい顔で言った。
「あなたが将来店を持ちたいと思ってるなら、こういう世界もあるんだって受け入れなきゃやっていけないわよ」
「私は絶対にあんなやつらにお金を払って、店を守ってもらうつもりはありません!」
「そうじゃない!そんなことを言ってるんじゃない!店を守るために、私たちみたいに契約をしてる店はいっぱいあるってこと!その現実をまずは受け止めなきゃ」
「暴力団追放条例ができて、彼らとのつながりを断とうって言われるけど、それでも今日みたいな時に実際にきれいにカタをつけてくれるのは警察じゃないんだ。だから今でも、うちみたいに陰で頼る人は多いんだよ」
「わかって、真琴ちゃん…」
膝に置いた手を思いっきり握りしめた。
黒のタイトミニから、太ももがあらわになった。
「もう今日は帰ったほうがいい。家まで送っていくから」
「…結構です、一人で帰れますから」
「勇作くんを呼ぼうか?」
「いえ、本当に大丈夫です」
私は立ち上がり、ロッカー室に向かった。
ドアを閉める時に「しばらく落ち着くまで休んでもいいから」というマスターの声が聞こえたけれど、それには答えなかった。