ふたり。-Triangle Love の果てに
~相原泰輔~
奥の事務所で売り上げをデータ入力していた俺のもとに、勝平がやってきた。
「泰輔さん…いえ、オーナー。表に変な女がずっと立ってるんですが、ホステスの面接か何か約束されてますか」
「変な女?」
「はい。傘もささずに、ずっと店の前に」
「さあな、ほっておけ」
そうは言ったものの、気になった俺は煙草を灰皿に押しつけると、表に向かった。
面接の約束などしていなかったはずだが…と少し自分の記憶に自信がなくなる。
傘を片手に、店のドアを開けた。
道を挟んで向かい側に、まるで迷子の幼子ように小さくなったずぶぬれの女が立っているのが目に飛び込んできた。
…マコ?
傘を開き、ゆっくりと近付く。
足音に気付いたのか、彼女は青白い顔を向けた。
久々に見るその姿に、心がざわめく。
「泰兄…」
「変な女がずっと立ってるって言うから来てみたら、おまえだったのか。どうしたんだ」
俺はあえて冷静を装いながら、開いた傘をマコの頭上に掲げた。
「…ごめんなさい」
「ごめんなさい、じゃわからない。仕事はどうしたんだ」
ずいぶん長い間、ここに立っていると勝平が言っていた。
腕時計を見る。
「どうした?」
もう一度俺は訊いた。
「私…」
みるみるうちに、猫のような人を惹き込む瞳に涙が浮かぶ。
「私ね…」
言葉に詰まった彼女は下唇を噛んだ。
何かを言いたいのはわかった。
だが、それを逡巡している。
「言えよ、どうしたんだ」
俺は先を促す。
迷いのせいか、彼女の瞳は大きく揺らいだ。
傘に落ちてくる雨粒の音がやけに大きく聞こえる。
待ちきれなくなった俺の口が「早く言え」と動くその前に、か細い声が聞こえた。