ふたり。-Triangle Love の果てに
「なぁ直人よぉ、大事な女なら変なムシがつかんようにちゃんと見張っておけよ。こんな美人、あっという間に俺みたいなのが群がっちまうぞ」
足下の橘さんを見下ろすと、そう言って組長は笑った。
何事もなかったかのように、静かにいつものドアベルが鳴り組長は店を出て行った。
時間が止まってしまったかのようなシトラスの店内。
私は突っ立ったまま、今起きた出来事に信じられない思いでいた。
ゆっくりと橘さんは顔をあげるも、視線は床に落としたまま。
ゆり子さんがそろそろと崩れるように、その場に座り込んだ。
「どうしてあんなことを…」って泣きながら、細い手で彼の肩をつかんで揺さぶる。
「あなたのお立場が悪くなったら、どうなさるおつもりだったんですか。あなたには守らなければならない、若い人たちがたくさんいらっしゃるでしょう?私なんかよりも、ずっとあなたを必要としている人たちがいらっしゃるでしょう?」
それに対して、身じろぎひとつしないまま彼は言った。
「…わかってる。わかっていたが、どうしようもなかった」
ねぇ、泰兄。
今、私たちはひとつの愛が紡がれるのをこの目で見ている。
寄り添いたくても、なかなかできなかったふたりの想いが、今やっと叶おうとしている。
私たちは、その愛の「目撃者」。
胸が熱くなった。
「来い」
息のような声の泰兄は、私の腕をつかんだ。
足がもつれるほどに強く引くその手。
太陽の光に目を細めて初めて、私は店を出たのだと知る。
泰兄はかまわず早足で歩き出す。
「待って」と私は彼の手をはずし、引き返した。
閉じかけたシトラスの扉。
その隙間から見えたの。
橘さんとゆり子さんの愛が実った瞬間が。
彼が、あの橘さんが…
ゆり子さんを抱きしめてた。
強く、強く…
お互いが全身で「愛してる」って叫んでるみたいだった。
ドアにかけてあるプレートをOPENからCLOSEDへとひっくり返して戻ると、泰兄が笑ってくれた。
そしてまた私の手をとると、本通りの人の波の中に向かって走り出す。
「泰兄!ゆっくり!」
人にぶつかりそうになって目をつぶっても、不思議なことにうまくかわしていた。
それは泰兄が手を引いてくれているから。
人の合間をうまくすり抜けていく。
初めは怖かったけれど、次第に彼が手をつないでいてくれたら大丈夫な気がしてきた。
だってこうやって彼は私を導いてくれている。
「泰兄!」
振り返った彼が、また笑ってくれた。