ふたり。-Triangle Love の果てに
前方に人の気配を感じて、傘を少し持ち上げた。
そこには黒い傘、黒いスーツに身を包んだ男が立っていた。
傍らには女…
その横顔を見て、どくん、と大きく胸が波打った。
俺の視線に気付いた男が、ゆっくりと顔をこちらに向けた。
「勇作」
その声の主が立っているのは、紛れもなく「片桐家」の墓の前だ。
続いて連れの女が俺を見て、目を大きくした。
「お兄ちゃん…」
喉の奥が焼けるように痛むのを感じながら、搾り出すように俺は訊いた。
「ふたりそろって、ここで何を?」
「何をって…今日は月命日だから」と真琴が答えた。
あの駐車場にあった高級車は泰輔兄さんのものか、と妙に納得する自分と、なんで彼がここに真琴と一緒にいるんだ、圭条会の人間に参ってもらう筋合いなどない、という怒りを必死で抑えている自分がいた。
泰輔兄さんは鼻をかくと、譲るように片桐家の墓の前から数歩退いた。
墓前に目をやると、そこには新しい菊の花。
「これはあなたが?」
あえて真琴にではなく、泰輔兄さんに問うた。
彼と一緒の真琴なんて見たくなかった。
ましてやひとつの傘に寄り添うふたりなんて。
「余計なことだとは思ったんだが」
その言葉に、俺の心の堰は一瞬にして切られた。
「余計なことだとわかってるなら、こんなことしないでください!」
張り上げた声とは裏腹に、雨の中で線香が細く白い煙を静かに燻らせている。
「こんなことで俺たちに償ってるつもりですか!?圭条会であの事件の担当にでもなったんですか?毎月花を供えに来るっていう役をあてがわれましたか!?第一、ここに花を供えたからといって、手を合わせたからといって、あんたたち組織が両親を殺した罪は消えない!!」
俺は叫びながら彼に詰め寄った。
他に誰もいない墓地に、その声が響き渡る。
「お兄ちゃん!」
泰輔兄さんをかばうように、進み出る真琴。
「やめて、そんなふうに彼を責めるのは」
「おまえは彼があの事件に関係ないとでも?いい加減にするんだ!」
もう止めることなどできなかった。
ここ数ヶ月の間に積もりに積もったこの思いをぶちまけるには、このふたりとの再会は充分すぎるほどのきっかけだった。