ふたり。-Triangle Love の果てに
でも彼女はなかなか帰ってこなかった。
もしかしてトイレの中でますます気分が悪くなってるんじゃないか、そんなことを思ったけれど、様子を見に行くと何だか急かしているようで気が引けた。
心配しながらも、私はリビングで待っていた。
20分ほど経った頃、厳しい顔つきの翠さんが戻ってきた。
持っていたハンカチを慌ただしくバッグに突っ込むと「仕事に戻るね」と言った。
「え?でも無理しないほうが…」
「職場から電話があったの。どこをほっつき歩いてるんだって怒られちゃった。妊娠してること、まだ言ってないから仕方ないわよね」
翠さんは困り顔で水滴のいっぱい付いたグラスを手に取ると、お茶を一口飲んだ。
「ありがとうね、助かったわ。今日の約束はまた次回に持ち越してもいいかな」
「もちろんです」
見送りに出ようとする私に、彼女は手を振った。
「ここでいいの。本当にごめんなさいね」
腕時計を気にしながら、翠さんはあっという間に出て行った。
おめでとう、って言いたかったのに…
今度会った時には、まっさきに言おう。
グラスの後片付けをしていると、翠さんと入れ替わるように泰兄が突然帰ってきた。
慌ててシンクに来客用のグラスを隠す。
「随分早いのね。今日は遅くなるんじゃなかった?でも仕事に出る前に会えて嬉しいわ」
そんな私に笑いながら、泰兄はさっきまで翠さんがいたソファーに腰を下ろした。
彼がいない間に人を家に入れることは固く禁じられていただけに、翠さんが来ていたことは黙っていた。
「コーヒーを淹れてくれ」
「あなたみたいにうまく淹れられないわ」
「おまえ、シトラスで客にコーヒー出してるんだろ。よくもそんなことが言えるな」
「だってあれはゆり子さんが淹れたのを私が『出してるだけ』、なんだもの」
「なんだそれ、まぁいい。とにかく用意してくれ。着替えてくるから」と鼻で笑って、彼はネクタイを緩め立ち上がった。
「わかったわ」
ケトルを火にかける。
泰兄が出て行ったのを確認すると、私は素早く先ほどのグラスを洗って棚に戻しておいた。