妖(あやかし)狩り・弐~右丸VSそはや丸~
第一章
 ある日の早暁。
 蓮台野の屋敷の一室でまどろんでいた呉羽は、妙に強い念に目を覚ました。

 まだ桜も咲かないこの時期は、朝の寒さがことさら染みる。
 衾(ふすま)を引っ被ったまま、呉羽はとりあえず、念を探ってみた。

「・・・・・・烏丸?」

 念を飛ばすなど、術師でも相当な腕がないとできない。
 それ以外となると、物の怪だ。

 呉羽は知り合いの物の怪を思い浮かべた。
 まだ子供だが、烏丸は烏天狗である。
 妖力もそれなりに強い。

 その烏丸が、何か切羽詰まった様子で念を送ってきたようだ。

「どうしたというのだ。こんな朝っぱらから・・・・・・」

 声に出したところで、烏丸に声が届くわけはない。
 一人でぶつぶつ言っていると、衾の横に、いきなり先程まではなかった人影が現れた。

「何一人でぶつぶつ言ってる。寝ぼけてんのか?」

 紛れもなく、男の声だ。
 先程まで呉羽の横に置かれてあった太刀が消え、そこに一人の男が胡座をかいている。

「なぁんか、妙な気を感じたな。どうしたぃ? 何か、あったのか?」

 大きく伸びをしつつ、妻戸を開ける。
 途端に冷たい空気が入り込み、呉羽は一瞬出していた顔を、再び衾の中に引っ込めた。

 だが、先程の烏丸の念が気になり、とても二度寝などできる気分でもない。
 しぶしぶ、呉羽は起き上がった。
 わしわしと頭を掻きながら、衾を肩にかける。
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