電網自衛隊
第1章 ログイン
昇二が突き付けた銃口を見てその太った中年のヤクザはへなへなと床に尻もちをつくように、崩れ落ちるように座り込んだ。そして裏返った声で必死に命乞いを始めた。
「ま、待ってくれ。俺はただ、金もらって頼まれただけなんだ。それをパソコンに入れて、そんで24時間インターネットに繋ぎっぱなしにしとけば、それだけで30万円もくれるって言われて……」
 そこは都内のありふれたマンションの一室だった。男の一人暮らしにふさわしい、散らかった臭い部屋。その部屋のデスクトップパソコンを分解して中からマザーボードを引き出していた新入りの若い相棒は、ちらりと視線を向けた昇二にうなずきながら言った。
「確かにそのようですね。これは普通の市販品だ。こいつは『踏み台』ですよ」
 それを聞いていた中年ヤクザはほっと安心した様子を見せた。
「だ、だろ?だから、な?いや、なんか分からねえけど、俺も後悔してるよ」
「そうか、後悔しているか?」
 昇二はサイレンサーの付いた銃口を構えたまま、氷のように冷やかな口調で問いかけた。
「じゃあ、反省もしなくちゃな」
 昇二の声に、男は必死で愛想笑いを作りながら大げさに何度もうなずいた。
「ああ、分かってる、分かってる。反省するよ」
「そうだ、反省するんだ。ただし、あの世でな」
 次の瞬間、銃口がプシュッと鈍い音を立て、男の眉間にポツンと丸い赤い穴が開いた。そのまま男の体はゆっくり後ろ向きに床に倒れ込んで、数秒ピクピクした後ぐったりと動かなくなった。
 昇二が念のため男の首筋の頸動脈に手を触れて死んでいるのを確かめている間、若い相棒はパソコンからはずしたマザーボードをリュックにしまい込みながら、ヒューと小さく口笛を吹いた。強がってはいるが、目の前で人が殺された場面を見たのは初めてのようで、手が小刻みにブルブルと震えている。
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