電網自衛隊
 昇二はどうもその相棒としっくり行かない気がしていた。二十歳そこそこの今時の若者らしく、耳がすっぽり隠れる長い髪を金髪に染め、両方の耳にピアスをしている。体つきも細身で締りがなく、いちいち動作や話し方がチャラチャラしている感じで癇に障る。
 まだ二十代後半とは言え、鍛え上げた筋肉質の長身に髪を短く刈り上げた昇二には、どうにも一緒にいて訳もなくイライラさせられる相手だった。だが「令嬢」の推薦だけあって、情報処理技術の腕は超一流だった。ハッキング技術のコンテストで何度も全国大会まで行ったというのは嘘ではなさそうだ。
 山下竜というその相棒は一生懸命に粋がって見せようと、真っ青な顔で軽口を叩いた。
「へえ、話には聞いていたけど、ほんとに平然と殺しちゃうんですね、新田さんて。俺初めて見たすよ」
「現場では名前で呼ぶなと言っただろう。誰かに聞かれていないという保証はないんだ。盗聴器の可能性も含めてな」
「あ、いけね。すいません」
「よし、そろそろ撤収だ。ブツはみんな持ったな?」
 竜がうなずいたのを見て、昇二は薄い皮の手袋を両手にはめ、バッグから丸めた一枚の和紙を取り出し、広げて部屋の壁にあてナイフをその上から突き刺した。広がった細長い和紙の表面には墨で大きくこう書いてあった。
「電網自衛隊」
 竜が目を丸くして昇二に聞く。
「なんすか。そりゃ?」
 昇二はそれに答えずに黙ってマンションのドアを指差した。
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