電網自衛隊
 隊長は真っ青な顔で受話器を置いた。それは絶望的な状況だった。治安出動とは、国内で警察力では対処できない程の大規模な内乱や騒乱が起きた場合に、自衛隊が実力行使で暴徒を鎮圧するための物だ。
 本来は冷戦時代、日本国内で共産主義革命が起きた時にそれを鎮圧する事を想定して立案された自衛隊への出動命令の形態だ。自衛隊が同じ日本国民に武器を向ける事になるため、今まで一度も発動された事はなく、またこの命令を出す事は歴代の政権にとってタブーとされてきた。
「くそ!相手の位置は分かっているのに手も出せないなんて!」
 隊長と大臣のやり取りを聞いていた昇二は思わず声を上げた。隣の山口1尉が人差し指を唇にあて「シッ!」といさめた。
「新田、落ち着け。まだ防衛出動という可能性がある。隊長に任せるんだ」
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