電網自衛隊
 翌日の早朝、防衛省の高官はその日の各社朝刊を一瞥するや、そのうちの一紙をわしづかみにしてデスクに叩きつけた。コーヒーをカップについでいた女性職員がビクっと見をすくめて、おそるおそる尋ねる。
「あの、どうかなさいましたか?」
 高官は返事をせず紙面を顎でしゃくって見せた。彼女がのぞきこむとそこには社会面トップで昨夜の事件の記事が載っていた。見出しには「電網自衛隊、またも都内で殺人」とあった。
 高官はカップをわしづかみにしてごくりと一口コーヒーを飲みこんで怒鳴った。
「くそ!殺人狂、テロリストが、自衛隊の名を騙るとは、おこがましいにも程がある!」
 その日の夕刻、日が沈んだ直後に、昇二と竜は長野県の高原にある豪勢なお屋敷風の山荘に到着していた。あたりに人家がほとんど見えない、山の中の隠れ家と言った風情の建物だが、まるでおとぎ話に出てくるような西洋風の巨大な家屋だった。
 尾行の可能性を排除するため何度も逆方向に進路を変えて車を走らせ、一日がかりでたどり着いたのだった。昇二がクラクションを二度短く鳴らすと、白髪の執事が高さ3メートルはある石塀の門を開きにやって来た。屋敷の敷地に車を乗り入れ、玄関の前で二人が車から降りると老執事が小走りに追いついて来て、玄関のドアを開けてくれた。
「お帰りなさいませ」
 老執事は深々と頭を下げながら二人に中に入るよう促す。
「すぐに熱い紅茶をご用意いたします。まだ初秋とはいえ、この辺りはもう夜は冷えますからね。お風邪を召しませんように」
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