無口な彼が残業する理由 新装版
すっかり暗くなってしまった廊下を歩き、エレベーターの逆三角ボタンを押してため息をついた。
自分がバカみたいだと思った。
荷物を持ってくれたくらいで好きになっちゃって、
単純すぎるにも程がある。
ここしばらく男の人に優しくしてもらうことなんてなかったから、
耐性がなくなっているのかもしれない。
こんなんじゃ、優しくされるたびに簡単に人を好きになってしまう。
丸山くんはただ親切に荷物を運んでくれただけだ。
それは心優しい少年が長い横断歩道を渡る老女をエスコートするのと何ら変わりはない。
好きだなんて、一時の気の迷いだ。
丸山くんがカッコイイから、輝いて見えただけだ。
顔に騙されるほど若くはない。
明日になれば、きっと――……