無口な彼が残業する理由 新装版
「あたし、思うんだけどさ」
菊池さんはリップグロスをポーチに片付けながら
鏡越しに私を見据えていた。
「なんですか?」
「恋愛関係なんて脆いんだから、お互いもっと素直にならないと、壊れちゃうよ」
体の芯に響くような、落ち着いた声だった。
いつも茶化してくるような明るい声じゃなかった。
「素直にならないと、壊れちゃう」
素直になれてないもんな、私。
もしかしたらもうすでに壊れかけているのかもしれない。
「素直にならないと」
だけど私が素直になったら、
こんなに面倒で子供染みた感情をぶつけたら、
きっと呆れられてしまう。