無口な彼が残業する理由 新装版

「きゃっ……!」

下り坂でつまづいたけれど、

青木が支えてくれて転ぶには至らなかった。

このまま転んでしまえば良かったのに。

体に傷ができれば、心の痛みはきっと中和される。

「しっかりしろ。お前、普通じゃないぞ」

「普通だよ。ちょっと気分が良くないだけ」

「嘘つけ。何があった?」

何もないよ。

ただ、見てしまっただけ。

「ねえ、青木」

私は泣き出したりしないように、

ぐっと顔に力を込めた。

「私のこと、好き?」

「は?」

「私のこと、好きか聞いてるの」

< 309 / 382 >

この作品をシェア

pagetop