無口な彼が残業する理由 新装版

涙が溢れそうになった瞬間、

青木が私を包み込んだ。

世界中から来た観光客の面前なのにと驚いたけれど、

丸山くんのような有無を言わせない仕草に、

なす術はなかった。

「……だそうだ。残念だったな」

私の背後に向けた、青木の言葉。

悟ってしまった。

青木の肩に視界を遮られて見えてはいないし

ぎゅっと押し付けられているから振り向くこともできないけれど。

青木の視界の先には、丸山くんがいる。

「理沙先輩……」

愛華ちゃんの声が、それを確信させてくれた。


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