コイン★悪い男の純情
 「借用書はどうしよう」

 「そんなもんいらん。あんたがうちに尽くしてくれたら、それでちゃらや。それより、はよおいで」

 純一は心を込めた。それが、純一の精一杯のお礼だった。


 純一は呼吸を整えると、素早く身支度を整えた。

 ベッドには絵美が屍のように横たわっている。

 「ありがとう」

 軽く敬礼をすると、純一はバッグからメモとペンを取り出した。


 先に失礼する。会計は済ませておくから。お金ありがとう。感謝をしているよ。      
                 芝


 ベッドを見ると、絵美はまだぐったりとしている。

 (お金は有難く頂戴する。俺の精一杯のお礼はしたつもりだ。じゃ、元気でな)

 純一は無言で絵美に語り掛けた。
 純一はホテルの清算を済ませ、急いで5番街を出た。

 (これで、絵美にもう逢う事は無いだろう。この女なら1000万円以上頂けただろう。しかし、欲を出して、警察に訴えられたら、命取りだ。これでいい)


 (次の獲物は芳恵だ)


 純一は自宅のあるマンションに足を速めた。


 ひと仕事が終わった。

 汗が乾いた体を優しく撫でる4月の風が、純一にはたまらなく心地良かった。


 
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