コイン★悪い男の純情
 絵美は苦しく切ない日々を送っていた。
 純一を忘れられなかった。

 知的で甘いマスク。
 精悍な体。
 紳士的な話し方。

 とりわけ忘れられなかったのは、とろけるような口付け。

 腕、足、耳、指の爪、髪の毛、唇。そして、鉄板のように硬くて厚い胸。

 純一の全てが忘れられなかった。


 純一と最後に逢った日の事を思い出すと、絵美は今も体の芯が疼いた。しかし、あれ以来、純一からの電話は掛かってこなかった。

 「あの馬鹿、何で電話をくれへんのや」

 絵美は気が変になる位に純一を求めていた。しかし、
あれ以来、純一から電話は掛からなかった。

 1日24時間。

眠りの中でさえも電話の音に聞き耳を立て、電話が鳴れば絵美は飛び起きた。
 
 こんな状態で10日が過ぎた。
 純一から連絡は無かった。

 絵美は何が何でも純一を捜すつもりでいた。時間とお金を幾ら掛けても。たとえ、経営する4店を手放す事になっても、純一を捜す気でいた。


( あんな男はもういない)


 そう思えば思うほど、絵美は逢いたい気持ちがぐらぐらと沸騰した。


 純一を警察に訴える気は、海の砂粒の一粒さえも絵美には無かった。


 純一は絵美の前から、永遠に姿を晦ました。
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