コイン★悪い男の純情
「雨靴に、ゴム手袋か。さすがにプロだな」

 淳也は2階の自分の部屋に走って行った。

 かんなはてきぱきと片付け出した。

 「何をすればいいですか」
 「あらっ、早かったですね」

 「あなたひとりに押し付けられませんからね」


 (この人は優しい人だな)


 かんなは直感した。

 淳也をかんなが見ると、自分を真似しているのか、長靴とゴム手袋をはめ、古いジーンズとトレーナー姿だった。

 かんなは自分の真似をしているのが可笑しくて、心の中でプ~と笑った。

 (この人はこんな格好でも素敵な人だな)

 異様な悪臭に包まれた汚物まみれの戦場にいて、かんなはなぜか心がときめいた。

 「じゃ、ゴミ袋を出して、汚物を皆その中に入れてもらえますか」
 「了解です」

 「あっ、それから、申し訳ないのですけど、便はナイロン袋に入れてから捨ててもらえますか」
 「またまた、了解です」

 「出来ないモノは私がしますから、別の所に纏めて置いておいて下さい」
 「了解の了解です」

 二人は真ん中にゴミ袋を置き、部屋の右端と左端に分かれて汚物を片付け出した。

「それにしてもお袋のやつ、片手だけだよくこれだけ散らかしたものだな」

 便の付いたティシュを片付けながら、溜息交じりに淳也が呟いた。

 「ベッドから落ちて、パニックになったのでしょう。叱らないで下さいね。年をいけば、誰でもいつかはこうなるのですから」


 (それにしても、優しい人だなあ)


 淳也は汚物を嫌な顔ひとつせず、てきぱきと片付けるかんなを見て、暫しポ~と見とれていた。
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