コイン★悪い男の純情
 「眠たいよ~」

 眠気が催したのか、勇太がしきりに目を手の甲で擦っている。

 「困ったな。これじゃ、勇太は自転車で帰れないわね」
 「僕がおぶって行きます」

 「えっ、淳也さんが。歩けば大分ありますよ」
 「大丈夫です」

 「申し訳無いわ」
 「そうさして下さい」

 「じゃ、甘えてもいいかしら。勇太の自転車はここに置かせてもらっていいですか」
 「どうぞ、どうぞ」

 淳也は勇太を背中に背負った。


 かんなは自転車を押して、二人は並んで歩き出した。

 「わあ、すげえ高いや。ママ!見て見て」
 目を擦っていた勇太は、淳也の背中の上ではしゃいでいる。

 「今度、3人で遊園地に行きたいな」
 「連れて行ってやる」

 「ほんと、寝小便のおっちゃん」
 「これ、勇太。謝りなさい」

 「ご免なさい。おっちゃん、でも、約束やで」
 「ああ、約束だ」

 「やった~。わあ~い、わあ~い」
 「いいんですか」

 「男の約束です。UMJ(ユニバーサル・ムービィ・ジャパン)に3人で行きましょう」

 「良かったね、勇太。この子ったら、現金ね。もう、スヤスヤ眠っているわ」
 「安心したのでしょう」

 「UMJは、私、まだ行った事無いの。一度、行って見たいと思っていたから、私も楽しみ」

 「それは、良かった。楽しみにしていて下さい」
 「淳也さん、勇太、重くありません」

 「大丈夫です」
 3人は和やかに語らいながら歩いていた。

 「私が住んでいる団地が見えて来たわ」
 「あの前の団地ですか」

 10棟位の5階建ての建物群が前方にそびえている。

 「やっと、着いたわね。淳也さん、重たかったでしょう」
 「大丈夫です」

 3人は団地の入り口を入り、かんなの住む8棟の入り口に向かった。
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