コイン★悪い男の純情
11話 前夫
 入り口の階段にひとりの男が座っていた。
 かんなの前の夫の前崎孝太だった。

 「えらい、遅かったやないか」
 「何の用」

 「立ち話も何やから、中で話そうやないか」
 「私はあんたなんかと話しなんか無いわ。もう、あんたとは赤の他人や。話があるのなら、ここで話して」

 「そやから、その関係を元通りにしようと言うてるのやないか」
 「私はそんな気、全く無いから帰って」

 「勇太の事を考えたれや。もうじき小学校やで」
 「今頃、何を勝手な事を。その勇太を捨てたのはあんたや」


 「あれは、ほんの浮気や。本気や無いのはわかっとるやろ」


 「もう、あんたとは離婚が成立してるじゃないの。私らの事はほっといて」
 「そんなもんどうにでもなる。もう一度やり直そう」

 「私はそんな気無いから、早く帰って」
 「さあ、頭を冷やして中で話そう」

 そう言うと、前崎はかんなを家の中に引き摺りこもうと、かんなの手を無理やり引っ張った。

 「止めて。淳也さ~ん」
 「その手を離して下さい」

 「何や、お前は。関係無いやろ。引っ込んでろ」
 「その人は、私の婚約者や。これで、わかったでしょう。わかったら、早く帰って」

 前崎は淳也を見て、かんなの手を離した。
 かんなは淳也のそばに走って行った。


 「かんなさん、勇太君をお願いします」
 「はい、わかりました」


 淳也は背中の勇太をかんなに渡した。

 
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