摩天楼Devil
篤志さんは抵抗する私の身体を自分のほうに引っ張り、

彼自身も力みすぎたようで、私は勢いよく彼の胸元に突っ込んだ。


低い鼻を打ち、それを撫でた。


香水らしき匂いと体温をまた感じた。


そうすると、先ほどよりはちょっぴり落ち着けた。


「部屋においで。ちゃんと話そ」


迷惑かけたのに、篤志さんは優しく耳元で囁く。


「……キスしな……いで……」


「今日はしないよ」


違う。
さっきの、他の人とのキスを浮かべて言ったの。


他の人としてほしくない、と思った。


見知らぬ女性への怒りが、ヤキモチだと気づく。


――赤点女だけど、ホントにバカだね……

こんなことに遭遇してから自覚するなんて――


真悠子、あなたの言う通りだった。


私、篤志さんのこと――




目の前のテーブルに、琥珀色の紅茶が、カップの中で揺れる。


「少しは落ち着いたか?」


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