摩天楼Devil
――遅かった。


「なんか、味変……なんか、クラクラするし……」


アルコールに弱い女の子はヨロける。


思わず、立ち上がり、カウンター越しに彼女を支えた。


「げっ、ヒナ!」と、おじさん。


姪を抱えようとしたが、客が増える。


おばさんも、かけっぱなしだった鍋に走る。


――仕方ない……


「おじさん、おばさん、俺運ぶよ。二階の自宅でいいんだよね」


「ああ、頼むよ。これは鍵な」


カウンターから、彼女を支えながら、店の外に出ると、そこで抱き上げた。


「うーん」と唸りながら、彼女はしがみついてきた。

チョコレートの甘い香りがした。


「たく、なんで俺が……」


自分から言ったとはいえ、ブツブツと文句を漏らした。


すると、ヒナは「ごめんらひゃい」と呟いた。


なんだか、悪戯心が働いたのもあり、冗談で、


「礼なら、キスの方がいいね」と言った。


階段の上ろうとした時だった。


「いいれすよぉ」という返答に、思わず足を止めた。

< 216 / 316 >

この作品をシェア

pagetop