摩天楼Devil
「いや……」と、短く答える。


「篠山駿様がおいででしたね。可愛いらしいお嬢様をお連れでした。

わたしの記憶が正しければ、彼女は篤志様があのアパートで……」


「行くぞ。予定は詰まってるんだろ」


俺は初めて、彼に命令口調で言った。


すると彼は、「失礼しました」と軽く一礼し、ベルボーイが車を用意していた玄関まで俺を導く。


車に乗る込む前に、無意識に周囲を見渡してた。


“姫”はどこにもいない。


「篤志様?」


「なんでもない」



――さようなら。


妃奈……


君が、


好きだったよ。


どうか、幸せに――



二度めの別れを、心の中で呟くと、今度こそ車に乗った。



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