摩天楼Devil
「妃奈は可愛いな」


ずっと見ていたらしい篤志さんが、フライパンから離した、私の手を引く。


「あ、篤志さん?」


彼は額にキスをした。


「……じゃ、待ってる」


唇を離した篤志さんは、洋間に戻る。


――な、何よ。い、意味分かんない。


人のこと、バカにしたり、偉そうに命令したり、意地悪なくせに――


あんな、一方的なキスするくせに。


なんで、急にこんなことするの……?


前髪の下に残る、柔らかい感触と、鼻に残る石けんの香りに、明らかに動揺してる。
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