cocoa 上

光汰

 俺が試合で谷口に怪我した手を
 殴られたとき、痛かった。
 一瞬優愛を見ると、泣きそうな顔をしてた。
 負けられない、そう思ったんだ。
 そしたら、優愛が俺の名前を呼んだんだ。


「…こうちゃん!」


 後ろが危ない、そう言われ後ろの気配に
 気づいたんだ、優愛のおかげで。
 ありがとう、優愛。お前のおかげで、また怪我しなくてよかった。
 谷口のやり方は、許せなかったけど
 アイツは試合の途中で全力で闘ってくれた。

 アイツは変わったと思う。
 バスケで汚しちゃいけねーんだ。
 大好きなバスケを自分の手で汚しちゃいけねー。
 試合が終わって、勝って嬉しかった。
 全身の肌で感じた嬉しさ。ふと、優愛を見た。
 でもその時、優愛が見てたのは俺じゃなかった。
 海斗だった。そんな気がしたんだ。
 だから俺は海斗を優愛の所へ行かせたんだ。
 本当は嫌だった。
 だけど、俺のわがままで優愛を傷つけたくなかったから。
 それに海斗には試合の礼があったし。
 そんな理由をつけて、ずっと優愛を心配してた俺。

 何度も何度も、海斗にメールを送る俺。
 馬鹿みてーだな、俺は。結局子どもなんだよな。
 海斗からのメールには何もしてねぇよ、の本文。
 海斗のことだから何もしてないってのは知ってた。
 なのに、何故かメールをしてしまうのは
 優愛が海斗を好きになるのも時間の問題だったからなんだ。

 そんな時。桃から電話がきた。


「こうちゃん!怪我したのって本当!?」


 きっと部活帰りだったんだろうな。
 俺は、大したことないから。
 そう言って電話を切ろうとしたけど桃は泣き出した。


「沼田さんから聞いたの。優愛を庇ったときに、怪我したって。優愛のせいで怪我したんでしょ?」


 桃の言葉に、俺はむかついた。
 優愛のせい?ふざけんな!大きな声で電話越しで叫んだ。
 驚いて泣き止む桃。


「怪我したのは俺が勝手に、優愛を守ったからだ!優愛は悪くねーのに、悪く言ってんじゃねぇ!」


 怒鳴る俺は電話を切った。優愛を守っただけだ。
 なのに、何で優愛が悪いって女子達は言うんだ…。
 次の日の学校で。
 廊下ですれ違った女子達も
 トイレで話していた女子達も
 次々と優愛を庇ったから怪我した口を並べてそう言った。
 お前等に何がわかんだよ!そう思ってた。
 でも笑っている優愛を見てホッとしていた。
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