雨色の宮
何人かの生徒がいて、可愛らしい包みの受け渡しをしている。ついでに私にくれる子も何人かいた。上級生もいたような気がする。お返しを渡しつつ、何とも恐れ多かったり、ありがたい気分になったりした。
ピアノの後ろにある十字架に切り取られた空は、まだ灰色の空。堪えきれなくなったようで、十字架は徐々に滴に濡らされて来ていた。
 何となく、校内を月乃さんを探して歩いてみることにした。

 中央ホールを最上階の中心とした中央棟内で、月乃さんがいそうな所と言えば…音楽室・図書室・美術室辺りかな…。
考えながら階段を降りる。まずは音楽室だ。

「月乃~?今日はこっちには来てないよ。空振りだね」
 月乃さんはたまに合唱部の伴奏を頼まれたりしている。学校のオーケストラにも所属しているので、本命だったのだけど合唱部の部長さんの言う通り、空振りだった。

「月乃さんなら今日は来てないですよ」
 美術室も空振り、美術部には月乃さんのお友達が多い。この副部長さんもそうだ。

「今日は本は借りに来てないわ、まだ教室にいるかもよ。私が出る時は少なくともまだいたわ」
 月乃さんのクラスの図書委員の方だ。その言葉に従って、私達の棟とは中央棟を挟んで反対の、上級生の教室がある棟に向かう。

「音無さんならちょっと前に教室を出たわよ。どこに行くかは聞いてないわねえ…ごめんなさいね」
 月乃さんのお友達の方だ。結構仲が良いみたいだけど今日の行方は知らないみたい。
 その後、中央棟も上級生棟を一通り回ってみたものの、私の包みが可愛らしい包みと交換されるばかりで、交換出来なくなった後は増えていくばかりだった。来月は全員にお返しを考えないと。
私の大荷物に見兼ねたのか、手芸部の知り合いの女の子が可愛らしい手提げ袋もくれたのでそれに丁寧に詰め込んで持ち歩いた。
手提げ袋のお礼も考えておこう。
窓の外を見ると、弱めではあるものの、先程よりは滴の勢いが増しているような気がした。私はふと、HRの最後に先生が言っていたことを思い出した。
聖ウァレンティーヌス…月乃さんの事だからもしかしてあそこにいるのかも。
今回は空振りではなく安打を打てるような気がした、もしくは本塁打。

 その場所は中央棟後方の中庭にある。白い十字架を戴いた純白の結晶。外壁だけでなく、扉も内装も白に包まれた、白色の聖なる宮。
そこの主もまた、あの場所と同じくあの人なのだ。
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