モノクロ*メランコリック


「けど…私がお父さんに耐えられなくなって、家を飛び出した日があって。お母さんとシロ、りさが街中を探し回ってね。結局、私を見つけたのはシロだった」


公園の草陰で泣いていた私の姿を見たとき、彼は泣きそうな顔をしたのを覚えている。

それで、思わず言ってしまったのだと思う。


「『美愛子!』って。すごくすごく、心配そうな声で呼んでくれたの。…私、怖くなかった。シロは慌てて『ごめん』って謝ってきたけど」


たぶん、彼の隣にいるときが、いちばん安心するからだろう。

彼の声を聞いていると、ホッとする。

だから、彼に呼ばれる『美愛子』という名前は、幸福な響きをしていた。


今でも、思い出せる。

泣きそうなほど震えていた、『美愛子』と呼ぶ声。

抱きしめられたときの、腕の力。


怖く、なかった。

すごくすごく、安心した。


だから、『シロに名前を呼ばれるのは、嫌じゃない』って言っちゃったのよね。



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