モノクロ*メランコリック
「…………」
顔を上げて、竜崎くんの顔を見てみる。
彼は悲痛そうな顔で、うつむいていた。
「…わ、悪い。嫌なこと、思い出させちまって…」
「いいの。…全然関係ないひとに話したら、なんか大したことじゃない気がしてきたわ。むしろ話してよかったのかも」
そう言って笑うと、竜崎くんも困ったように笑ってくれる。
私は続けて、「でもね」と言った。
「シロだけは、大丈夫だったの。シロになら、美愛子って呼ばれても、…怖く、なかったの」
彼の、穏やかで柔らかい声が好き。
ほっと安心するような、声が好き。
少しだけ笑ってそう言うと、竜崎くんはまっすぐに私を見つめた。
「私が、『美愛子』って呼ばれることに怖くなってから、シロもミアって呼んでたんだけど」
彼はすごく、気をつけていた。
私が怖がらないよう、お父さんのことを思い出さないよう。
一生懸命、『ミア』と呼んでいた。