シーサイドブルー
彼は手を握ったまま私を見つめた。


「話したくないことを無理に聞く権利は私にはない。
話す義務だって、凪にはない。
だから気にしなくていい。」


―――だから、そんな顔をしないでほしい。
本当はそう言いたかった。
なぜそう言いたかったかは分からない。少なくとも今は。


「…優しいね、海風は。」


彼は再び私の名前を呼んだ。
いつの間にか視線は、窓の外の海へと移っている。


「外に出ようか。」

「え?」

「話せば長くなるけれど、それでも聞く気はある?」

「話さなくていいって私は…。」

「興味、持ってくれたんでしょう?
だったら話したいよ。でも話す代わりに俺も君に聞きたいことがある。」


穏やかな表情を浮かべて彼はそう言った。


「何?」

「君が思っていること、何でも。」

「は…?」

「どうしてこの海に来たのか、とかね。」


それだけ言うと、彼は一度だけ手招きをした。
そしてすぅっと、玄関のドアを通り抜けた。

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