シーサイドブルー
「それはそれで哀しかったけど、それでも俺はこの世界を捨てたいと思えなかった。その判断は間違ってなかったって今は思っているし、助けたことだって後悔なんてしていないよ。」


ふぅっと一呼吸置いて、彼はまた口を開いた。


「…って言えれば良かったんだけどね。」

「え…?」


思わず視線を彼に向ける。
すると彼は水平線を見つめたまま、自嘲気味に言葉を漏らした。


「こんな姿になって、時々考えちゃうんだ。
あの子を助けたいなんて思わなければ、こんな姿にならずに彼女の元に行けたんじゃないか…とか思う自分がいるんだよね。
それがまた嫌でさー…もう戻れないのになんでそんなこと思うんだよとか思って、自分に絶望したりして。
それでも自分だけは捨てられないから困るんだよね、ほんと。」


あぁ、分かる。
直感的にそう思った。
私は私を捨てられない。そんなに簡単には。


「終わりがいつくるか分からないって、怖いことだよ。」


彼の視線は透けた自分の両手に移っている。


「いつ、終わるんだろう。
命は終わってるはずなのに、終わりが来なくて。
そんな俺はどこに行きつくんだろうって考える。答えなんて出ないのにね。」


身体が動いた。
私の身体が、反射のように、彼の方へと。


手を伸ばした。彼がほんの少し前にそうしたように、頬へと。

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