シーサイドブルー
もちろんその手が彼の頬に触れることはない。
彼の頬をすり抜けていく。


「っ…!」

「…そんな顔、しないで。」

「ごめ…私…。」


〝触れられない〟ことに傷付いていいのは私じゃない。間違いなく彼だ。


「手を伸ばしてくれてありがとう。
…なんか、初めて人にちゃんと話せてすっきりしたよ。
声が届いた相手が君で良かった。」


あまりにも優しい笑顔でそう言うから、なんだか彼の顔が見えなくなってきた。
視界が滲んでぼやける。
私は俯いた。こんな顔は誰にも見せられない。


「俺の代わりに泣くなんて、やっぱり君はとても優しい。」


彼はたった一言、それだけ言った。


元々透けていて見えにくい彼の身体が余計に見えない。
それでもどうやら彼は私から視線を外してくれたらしい。とてもありがたい。


言葉を失くした私達はしばらく波の音だけで沈黙を誤魔化していた。

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