シーサイドブルー
6.大切なもの
* * *


目が覚めた時、彼はいなかった。
夢でも見ていたのだろうかとも思えたが、いざ家に帰ってみると言い訳も聞いてもらえないほどに叱られた。
私はやはり2日間帰らなかったらしい。
彼との出会いは、夢ではないと信じている。


掴めない感情と過ごした時間だけが残って、私の想いはまたしても行き場を失った。


それでも、大切なものは確かにこの胸に残っている。


彼が好きだと言ってくれた自分は、やはりそんなに嫌いじゃない。
大好きだとは言えないけれど。
少しだけ好きになるキッカケを彼に貰えたような気がする。


「…ありがとう。」


受け取る相手がいなければ空気に溶けていく言葉だと知っていても、口にせずにはいられなかった。
届けたい。…いや、今となっては届けたかった。後悔に近い。


彼は天国にいるのだろうか。
それとも、ただ単に私が見えなくなってしまっただけなのか。


現象が現象だけに何も分からない。


それでも、海に来ることだけは止められない。


< 33 / 44 >

この作品をシェア

pagetop