白いツバサ
男は空を見上げた。

少しの間、流れる雲を見つめたあと──


「さて……」


そう言って、少年に目を向けた。

細身に見えるその体は、近くで見ると筋肉で引き締まっているのがわかる。


(僕を、どうするつもりだろう……)


少年の中に緊張が走った。


「……少年」

「は、はい!」

「迷惑をかけて、済まなかった」

「え……? あ……い、いえ……僕は別に……」


貴族からの謝罪。

その予想外の出来事に、思わず声に動揺の色が出た。


「ファイアリー、お前も謝りなさい」


父に促され、ファイアリーは一歩前に出る。

そして、少年を見つめると、思いのほか素直に頭を下げた。


「……すまなかった」

「い、いえ、もう……」


(案外、悪い人じゃないのかもしれない……)


少年が、そう思った瞬間──


「……だが──」


ファイアリーは勢い良く頭を上げ、叫んだ。


「だが、私はお前を許したわけではないぞ!」


(コ、コイツは……!!)


鋭い目で睨むファイアリー。


「お前は、まだそういうことを……」


溜め息をつくバーン。


「ファイアリーは、本当に負けず嫌いね」

「その性格、嫌いではないがな」


そう言って、アクアと羽帽子の男は笑う。


「笑い事じゃないよ、もう~」


ファイアリーの視線から逃れるように、少年は街の方に目を向けた。

次の瞬間、その目に緊張の色が走る。


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