白いツバサ

『握り締めた拳は……』

少年は、闇の中に立っていた。

これから起こる辛い出来事から自分を守るため、現実世界と意識を分断する。

心の中にもう1人の自分を作り出すことで、その出来事は全て“彼”が引き受けてくれるのだ。


殴られているのは自分ではない──


そう思い込むことで、これまで自分を守ってきたのだった。


殴られ屋──

それが少年の夜の仕事だ。

パイロと共に酒場を周り、酔った男たちの捌け口(はけぐち)となる。

打撃1回につき金貨1枚。

少年は避けることはないし、もちろん反撃することもない。

襲い来る苦痛から自分を守るには、闇の中に逃げ込むしかなかったのだ。


「おかしいな……」


だが、今回は意識の分断が上手く出来ない。

闇の縁から、現実世界が垣間見えてくる。

それはきっと……


アクア──


彼女の存在が、少年の心に大きな波紋を生み出していた。


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