100日愛 [短]
強張っていた薫の体から力が抜ける。
「ほっ…」と安堵の息も聞こえた。
「何かあるなら、話したい時に話して」
「……ごめんね、夾くん。悪気はないの。夾くんがあんな風にマナーを知らない子が嫌いなのも分かってる」
夾の胸に顔を埋めて、ポツリと話しはじめた。
その声は小さくて。
今にも消えてしまいそうな、ろうそくの火のような声。
夾は聞き逃さないように、一言一言を大事に聞き取る。
「でも…今はこうするしかないの。…まだ夾くんには話せないの。ごめんなさい」
「…いいよ、別に」
頭を二度叩く。
「嫌いに、ならないでね」
「は?ならねぇよ」
この時、苦笑混じりに言った夾を見た薫の表情が複雑だったことには気づかなかった。
「……でも…幸せになるなら嫌いになって」
「は?意味がわかんねぇんだけど?」
「………」
何もいわず、また黙って俯いてしまった薫に、夾は呆れながら顎を持ち上げた。
夾を捉えた瞳が、揺れている。
「………結局は、どうしてほしいんだよ」
その言葉に、薫は口をゆっくり開ける。
「……嫌わないで…っ…」
戸惑いながらも、それは本心だった。
「当たり前だろ」
唇を深く重ね合わせる。