キオクノカケラ

章の左太ももに赤い染みが拡がる。

後ろからは火薬の臭い。

振り向くまでもない。

拳をぎゅっと握ると、章に向いた銃口がオレの横から現れた。


これを奪えば――………。

そんな考えが頭をよぎる。

けどすぐにその考えを捨てた。

いや、無理だ。

章の後ろにも一人付いているし、

第一そんな簡単にうまくいく相手じゃない。


そんなオレの心を読んだかのように後ろの男はくっと笑った。


「無駄なことは、しない方が彼のためですよ。
もちろん、あなたのためにも、ね」




このまま黙っていれば、いずれ章が撃たれる。

今度は、確実に急所を狙うだろう。

しかも

悪いことに
うまく姿は隠してるけど、そこら中に人の気配がする。

人数はそんなにいないけど、今のオレたちじゃ勝ち目はない。


「…………。
…言えば、いいんだろ」


「頭領!!」


ひとつ

思いついた。

上手くいくかは分からないけど、今はやるしかない…。

オレは覚悟を決めると、男に向き直ってじっと相手を見据える。


「ここから約12km東に行った所に、倉庫がある。
赤い屋根の、オレが所有しているものだ」


「そこに詩織が?」


「…………」


オレの無言を肯定ととったのか、男は口角だけを上げて笑った。

それに対して章は、眉を潜めて成り行きを見守る。


果たしてこの考えが成功するかどうか……。

嫌な汗が一筋頬を通りすぎる。

そして、少しの間沈黙が流れた。


「さて…居場所も分かったことですし。
・・・
あなたはもう、用済みですね」


やっぱり…ふいにこの重たい沈黙を破ったのは男の方で、言うことも大体予想通り。

ここからが勝負………!!


「―――ああ、そうだね。
オレを…殺すかい?」


挑戦的な笑みを浮かべてそう問えば、彼は怪訝そうな顔をしながらも

銃口をオレの額に押しつけて逆に聞き返してきた。


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