キオクノカケラ

「あなたはそれでいいんですか?
詩織を置いて、先に逝くことになっても」


よし…。

食いついてきたな。

オレは不敵な笑みを崩さないまま、きっぱりといい放つ。


「あぁ。
オレが死ねば、‘詩織をもう危険な目に遭わせることはなくなる’からね」


「…………」


今度は向こうが黙る番だ。

男はしばらく考えるように停止すると、

オレたちの車を横目で見て銃を降ろした。


「倉庫まで案内してもらいましょうか」


今のところ計算通り。




やっぱりこいつは頭がいい。

オレの言葉の裏をよく読んでる。

けど

まだこいつはオレを試している。

半信半疑で、どういう反応をするか待っているんだ。

大丈夫。

…お望み通りの反応を示してやるよ。


「案内なんて嫌だね。
早くオレを撃てよ」


「………あなたに死なれては困るのですよ。
何でしたら、そちらの彼を撃ち殺しましょうか?」


「…章は関係ないだろ」


「あなたが駄々をこねずに案内すれば、そんなことはしませんよ」


「…………ちっ、分かったよ」


これで、こいつの疑問は確信に変わっただろう。

そして分かったはずだ。

倉庫には、“オレがいないと入れない”ってことが。





―――あとは、

倉庫に行ってから

中に入ってから

事が始まるだろう。


オレはそこで負けるわけにはいかない。


詩織のために

章のために

会社……

…いや、

オレ自身のために―――。


正に死ぬか生きるかの勝負の前に小さく息を吐くと

オレは覚悟をきめて、拳を握り締めた。




この時のオレは

この後全く予想外の出来事に

戸惑い

後悔することなんて

全く知るよしもなかった……――――。


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