キオクノカケラ
これ以上…オレから離れていかないでくれ


一度、オレの腕をすり抜けたお前を

もう二度と失いたくないんだ…


「大丈夫、オレがなんとかする。だから…オレを信じて着いてきてくれ。」


自分でも驚くくらい掠れて、低い声だった。

彼女の首もとに顔を埋めて、しっかりと抱きしめる。


詩織は何かを考えているようで、何も言わない。


もし嫌と言われたら……


いや、もし断られてもオレはお前を迎えにいく。

何度でも…。


ふいに彼女が口を開いた。


「わかった、あなたを信じる」


「っ……ああ」


正直ほっとした

オレは、こんなに弱かっただろうか?

いつも会社のことを、一番に考えて動いていたオレが。


今は彼女の言葉だけで一喜一憂している。


ああ…詩織は、オレの最大の弱味なんだな……。



とりあえず、詩織をオレの家に連れていこう。


話しはそれからだ。


詩織の手をひいて、人混みに潰されていた章を拾って、家までの車を呼ぶ。

車の中で、こんな大きい車乗ったの初めてー!て喜んでいた。

オレは、そんなお前に苦笑することしかできなかった。



お前もこんな車の一台や二台持ってたんだぜ?


覚えてないだけで


「ふふ…車だけでこんなに喜ぶなんてね。じゃあ、あれを見せたらもっと喜ぶ顔を拝めるかな」


「あれ?あれってなあに?」


「見てからのお楽しみ、かな」


パチンと片目を瞑ってみせると、みるみる顔が赤くなった。

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