キオクノカケラ
「………あの」


「えっ…ああ悪いね、なんだい?」


「っ……ああ、知ってるよ。」


ちゃんと、笑えているだろうか

オレを真っ直ぐ見据える夜明け色の瞳

彼女は確かに詩織だ。


なのに、知らない人に見えるのは何故だろう…

オレを知らない詩織。

オレの知らない詩織。


「…あなた名前は?」


「…っ……詩織、本気で覚えてないのかい?」


……詩織


名前すらも、

忘れてしまったのかい?


「覚えてないのって聞かれても……何の話しなの?私、あなたに会ったことあるんですか?」


「……そう、だね……」


「…あの…?」


うまく笑えない

詩織もオレの顔を見て、眉をひそめた。

駄目だな…オレ…


我ながら情けなくなる。

少しずつ思い出してもらえばいいんだ


少しずつ…


「オレは…結城。…兎街結城…」


「とまち…ゆうき…?兎街くん?」


「結城って呼びなよ」


「じゃあ…結城くん?」


「…くん、は……いや、何でもない」


「?」


どうせなら、前みたいにって思った

けど……



オレを不思議そうに見つめる詩織の目が

なんだか気まずくて、その視線から逃れたくて、歩き出した。

肩越しに振り返り、立ち止まったまま動かない詩織を人差し指で招く。


「でも……」


断られるのが怖くて、彼女の腕をぐいっと引っ張って、自分の元に引き寄せた。
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