キオクノカケラ

それからすぐに電話をかけて、事情を話すと


「分かった!すぐ行く」


隼くんはそう言って電話を切った。


「隼くん、すぐに来てくれるそうです」


「そうですか。
…あとは頭領の体力次第です」


「…………」


大丈夫。

大丈夫…。

結城くんなら…。

そう自分に言い聞かせる。

両手を顔の前でぎゅっと握り締めて、目を閉じた。





それからどのくらいの時間が経ったんだろう。

ふと携帯のディスプレイを確認すれば、

電話をかけてからまだ20分ほどしか経っていなかった。

病院のドアを見つめながら携帯を閉じると、

同時に医師らしき緑の服に包まれた男の人が手術室から出てきた。

彼は私たちの前に立つと、マスクを取って暗い表情を浮かべながら、

重々しく口を開いた。


「血圧、脈拍ともに危険な状況です。
あと10分もつかどうか…。
このまま血液の提供者が現れなければ、残念ですが……」


「そんな……」


空気が一気に重くなった気がした。

あと10分。

徐々にぼやける視界に、泣くもんかと唇を噛み締めて、

携帯を力強く握り締めたとき。


「なんだよ、みんな暗ぇ顔して」


突如聞こえた、場にそぐわない少し明るめな声に、私たちは一斉に振り向いた。

そこに立っていたのは、たった今も待ち望んでいた人。


「隼くん…っ!」


「おう!
なんかいろいろと―――……っ!」


彼が何かを言い終える前に、私は地面を蹴っていた。

そして勢いよく飛びつく。


「し、詩織…?」


彼は驚いたように私の名前を呼ぶ。

それでも私は、返事をすることができなかった。

小刻みに体が震えているのが自分でも分かる。


「おいおい…一体どうし…――」


彼はそこまで言いかけて、一瞬息を止めると私を優しく抱き締めた。


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