キオクノカケラ
第12章

「詩織ちゃんっ!」


後ろから自分の名前を呼ばれて振り返ると、

そこには息を切らせた恵が立っていた。


「恵?どうかしたの?」


なんだかいつもと雰囲気が違うことに違和感を覚えつつ、首を傾げると

彼女は何も言わずにズカズカと大股で私との距離を縮めていく。

そして私の腕を勢いよく掴んだ。


「婚約したってどういうこと?!」


ずいっと顔を近付けてくる恵に、私は少したじろぐ。


「め…ぐみ…?
どうしたの?いきなり、そんなこと…」


「ちゃんと答えて、詩織ちゃん。
本当に、婚約したの…?」


眉をひそめて、真剣な瞳が私を真っ直ぐに射抜く。

その視線に耐えきれず、私は思わず目を逸らした。


それを肯定ととったらしい恵は、悲しげな表情を浮かべて顔を俯ける。


「そう、なんだ……」


―――恵、ごめんね。


心配してくれてるんだよね。


分かってる…。

ちゃんと、分かってるよ。


でもね、これはあなたには言えないことなの…。



私は強く唇を噛み締めると、わざと彼女に問いかけた。


「…私が婚約するのっていけないことなの?」


すると、彼女は大きな目をさらに大きく見開く。


「え……?」


「私だって、ちゃんと考えて決めたんだよ…?

恵には、関係ないじゃない……」


「…詩織ちゃん………」


―――ずるい。




私はずるい…――。


こんなこと言って、恵がこれ以上何も言えるわけがない。


ほら、現に今だって恵は、困ったように瞳を伏せてしまった。




ごめんね…恵。

私は胸の前で拳を握り締めると、再び心中でそう呟いた。


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