キオクノカケラ
あの家では、会話が全くと言っていいほどなかったから、

美味しそうなんて言ったことも、言われたこともなかった。


でも懐かしいって思うってことは

記憶を失う前はこんな感じだったのかな。



「あーおいしかった★章さんって料理お上手なんですね」


「君にそう言われると嬉しいですね」


章さんは、ソファーに座って話す私に、笑顔で答えると、

隣に腰を下ろした。


「誰かに習ったんですか?」


「ええ、まあ…」


「あんたの場合、“仕込まれた”のほうが正しいんじゃない?」


頭上からふいに声がふってきた。

その声のするほうに首をのけ反らせると、

私をまっすぐ見つめる琥珀色の瞳と視線がぶつかった。

朝シャンをして濡れた髪から、雫が頬を伝う。

ほんのりピンク色の頬と、潤んだ瞳が色っぽい。

視線が交じると、彼は目を細めた。


章さんは額に手を当て、彼を見ずに言った。


「頭領…余計なこと言わなくていいですよ」


「事実だろ」


深いため息をつく章さんに、それを横目でみながら、どこか冷めた口調の結城くん。

お互いに顔を見ないで話す彼らを見ると、

なんか似てると思う。


顔が似てるとか、
そういうんじゃなくて…




雰囲気が似てる。


でもさすがにこの険悪なムードには耐えきれない!!


「あの、ふたりはどういった関係なんですか?」


私は話を変えるべく、以前から気になっていたことを尋ねてみた。


私と目を合わせていた結城くんは、驚いたような顔をしながら首を傾げた。


「オレ(僕)たちの関係(ですか)…?」


章さんも驚いたようで、結城くんと重なって声をあげた。


そんなに驚くことかなあ…

私も首を傾げる。


関係、ねえ…と呟いて結城くんもソファーに腰かける。

必然的に私は、章さんと結城くんに挟まれる形になった。


そして、座った結城くんは私の髪をすく。


「いきなりどうしたんだい?
オレたちの関係を知りたいだなんてさ」

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